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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)1745号 判決 1988年5月18日

原告 東京華商協同組合

右代表者代表理事 陳敏雄

右訴訟代理人弁護士 福岡清

同 山崎雅彦

右訴訟復代理人弁護士 小林伸年

被告 三幸総業株式会社

右代表者代表取締役 細田浩

被告 岡地義夫

右両名訴訟代理人弁護士 大野重信

同 山上芳和

同 新倉健次

被告 青木茂

主文

一、被告三幸総業株式会社は、原告に対し、金二億円及びこれに対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告三幸総業株式会社に対するその余の請求並びに被告岡地義夫及び被告青木茂に対する各請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、これを三分し、その一を被告三幸総業株式会社の、その余を原告の各負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告らは、連帯して、原告に対し、二億円及びこれに対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで一〇〇円につき日歩八銭の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は、被告らの負担とする。

3. 1につき仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 当事者

(一)  原告は、中小企業等協同組合法に基づいて設立された協同組合である。

(二)  被告三幸総業株式会社(以下「被告会社」という。)は、昭和五三年七月一八日定款が作成され、同月二八日発起人による株式の引受け及び定款の認証がされ、同年八月九日設立登記がされて設立された株式会社である。

2. 手形取引契約

(一)  原告は、昭和五三年八月三日、当時設立中の会社であった被告会社との間で、左記約定を含む手形取引契約(以下「本件手形取引契約」という。)を締結した。

(1) 本件手形取引契約は、原告が被告会社に対し手形貸付けの方法により融資した場合にも適用される。

(2) 遅延損害金は、一〇〇円につき日歩八銭の割合とする。

(二)  ところで、本件手形取引契約は、被告会社が昭和五三年八月九日設立される直前に締結されたものであるが、当時設立中の会社であった被告会社の人的、物的基礎は既に十分確定していて、設立後の被告会社と実質的に同一であったから、本件手形取引契約の効力は、設立後の被告会社に対してもそのまま及ぶものというべきである。

3. 連帯保証契約

原告は、昭和五三年八月三日、被告岡地義夫(以下「被告岡地」という。)及び被告青木茂(以下「被告青木」という。)との間で、本件手形取引契約に基づく被告会社の原告に対する債務につき右被告らがそれぞれ連帯して保証する旨の契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結した。

4. 貸金

原告は、被告会社に対し、本件手形取引契約に基づき、昭和五四年一月一〇日、四〇〇〇万円を弁済期同年七月一〇日の約定で、同年一月二六日、一億六〇〇〇万円を弁済期同年七月二六日の約定で、それぞれ貸し渡した(以下、右各貸金を合わせて「本件貸金」という。)。

5. よって、原告は、被告会社に対しては消費貸借契約に基づき、被告岡地及び被告青木に対しては連帯保証契約に基づき、本件貸金二億円及びこれに対する弁済期後の日である昭和六〇年二月一日から支払ずみまで約定利率である一〇〇円につき日歩八銭の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告会社)

1. 請求原因1の事実は、認める。

2. 同2の事実は、否認する。

3. 同4の事実のうち、原告から被告会社に対して合計二億円が原告主張の約定で貸し渡されたことは認めるが、それが本件手形取引契約に基づくものであるとの点は否認する。

(被告岡地)

1. 請求原因1(一)の事実は知らないが、同1(二)の事実は認める。

2. 同2及び同3の各事実は、いずれも否認する。

3. 同4の事実は、知らない。

(被告青木)

1. 請求原因1ないし3の各事実は、いずれも認める。

2. 同4の事実は、知らない。

三、被告青木の抗弁

被告青木と原告の参事である所賀崇とは、昭和五五年一一月一六日ころ、原告は本件連帯保証契約に基づく被告青木の連帯保証責任を免責する旨の合意をした。

四、被告青木の抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1(二)の事実は、当事者間に争いがない。

二、請求原因2(本件手形取引契約の締結)について

前記一の争いのない事実に、成立に争いのない乙第七号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第八ないし第一一号証、証人所賀崇の証言及び被告青木茂本人尋問の結果並びに右証言及び本人尋問の結果により本件手形取引契約締結に際し原告に差し入れられた手形取引約定書(以下「本件手形取引約定書」という。)と認める甲第一号証の存在を総合すれば、細田浩(以下「細田」という。)、被告岡地、被告青木ほか四名は、昭和五三年七月一八日、被告会社の発起人として定款を作成し、自ら被告会社の設立に際し発行すると定められた株式四万株(額面金額合計二〇〇〇万円)のうち三万九〇〇〇株を引き受け、同月二八日、東京法務局所属公証人により右定款の認証を受けた上、株式引受けの申込みをしていた吉田達司に対して一〇〇〇株を割り当てたこと、そして、同日中に右株式すべての払込みが完了して被告会社の創立総会が開催され、細田、被告岡地、被告青木ほか一名が被告会社の取締役に選任されたこと、しかして、細田は、被告会社の設立登記前である同年八月三日、被告会社の代表取締役として、原告に本件手形取引約定書を差し入れて、原告との間に本件手形取引契約を締結したことが認められ、証人細田の証言中右認定に反する部分は採用することができない。

右認定事実によれば、細田が原告に本件手形取引約定書を差し入れて本件手形取引契約を締結した当時、被告会社は、いまだ設立登記がなされていなくて、いわゆる設立中の会社であったことは明らかであるが、設立中の会社においては、たとえ創立総会において取締役が選任された後であっても、その執行機関は依然として発起人であって、取締役ないし代表取締役が設立中の会社を代表して法律行為をすることはできないものと解すべきであるから、細田が被告会社の代表取締役として原告に本件手形取引約定書を差し入れて原告と本件手形取引契約を締結したからといって、その法律効果が設立中の会社に帰属することはなく、また、その後設立登記がなされて被告会社が設立されたからといって、当然に細田の前記行為の効果が被告会社に帰属するものということもできない。

なお、前示のとおり、細田は被告会社の発起人の一人であるから、同人が被告会社の発起人として本件手形取引約定書を原告に差し入れて本件手形取引契約を締結したと解する余地もないではないが、本件手形取引契約の締結はいわゆる開業準備行為に当たるものと解されるところ、株式会社の発起人は、法定の要件を満たした財産引受けを除いて開業準備行為をすることができないものというべきであり、本件手形取引契約の締結が右財産引受けに当たらないことは明らかであるから、仮に細田が被告会社の発起人として本件手形取引約定書を原告に差し入れて本件手形取引契約を締結したとしても、その法律効果が被告会社に及ぶ余地はない。

したがって、本件手形取引契約の効果はいずれにしても被告会社には及ばないものといわなければならない。

三、そうすると、原告の被告岡地及び被告青木に対する各請求は、本件手形取引契約の効果が被告会社に及ぶことを前提として、本件手形取引契約に基づく被告会社の債務について本件連帯保証契約に基づきその履行を求めるものであるところ、前示のとおり、本件手形取引契約の効果は被告会社に及ばず、したがって、主債務である本件手形取引契約に基づく被告会社の債務は発生する余地はないから、原告の右各請求は、本件連帯保証契約の成否その他の点について判断するまでもなく理由がない。

四、請求原因4(本件貸金)の事実は、本件貸金が本件手形取引契約に基づくとの点を除いて、原告と被告会社との間で争いがない。

しかしながら、前示したとおり、本件手形取引契約は被告会社にはその効果が及ばないから、本件貸金は本件手形取引契約に基づいてされたものとはいえず、本件手形取引契約における遅延損害金の約定は、本件貸金には及ばないものといわなければならない。

したがって、原告の被告会社に対する請求は、本件貸金二億円及びこれに対する弁済期後の日である昭和六〇年二月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものというべきである。

五、結論

よって、原告の本訴請求は、被告会社に対して本件貸金二億円及びこれに対する弁済期後の日である昭和六〇年二月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、同被告に対するその余の請求並びに被告岡地及び被告青木に対する各請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 木下秀樹 増田稔)

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